【ヤマハイマーシブソリューション「AFC Image」使用事例レポート】没入型音楽体験ミュージアム「MUUUSE:MUSIC MUSEUM」/ 東京
Japan/Tokyo Nov.-Dec. 2024

2024年11月1日から12月27日まで、虎ノ門ヒルズの「TOKYO NODE(東京ノード)」で、没入型音楽体験ミュージアム「MUUUSE(ミューズ):MUSIC MUSEUM」(主催:TOKYO NODE、株式会社J-WAVE)が開催されました。本イベント会場のひとつであるGALLERY Aでは、立体的な音響演出を可能にするヤマハの音像制御システム「AFC Image」、NEXOのスピーカーやSteinberg「Nuendo」など、ヤマハのイマーシブソリューションが最大限に活用されました。
本記事では、ヤマハイマーシブソリューションの採用理由や目指した音響効果、さらに実際の使用感などについて、株式会社J-WAVE 取締役 マーケティングデザイン局長 小向 国靖 氏、森ビル株式会社 新領域事業部 TOKYO NODE運営室 茂谷 一輝 氏、そして音響を担当した有限会社プレストーン ディレクター/エンジニア 栃尾 恒樹 氏、岩野 和美 氏、株式会社タケナカ サウンドシステム部 大内 敏 氏にお話をうかがいました。
「MUUUSE:MUSIC MUSEUM」概要
開催概要
イベント名:「MUUUSE:MUSIC MUSEUM ~音に触れる、光を聞く。身体が反射する。~」
期間:2024年11月1日(金)~ 2024年12月27日(金)
会場:TOKYO NODE GALLERY A/B/C
主催:TOKYO NODE(森ビル株式会社)/ 株式会社 J-WAVE

「MUUUSE:MUSIC MUSEUM」は、YOASOBI、TM NETWORK、THE YELLOW MONKEYをはじめとする豪華アーティストとともに、音楽、芸術、テクノロジーを融合させ、全感覚を刺激する没入型音楽体験ミュージアムとして開催されたイベントです。会場は虎ノ門ヒルズの地上200mの高さに位置するTOKYO NODE GALLERY A/B/C。3つのギャラリーでは時空を超えたそれぞれのテーマ「自然」「歌」「未来」の音楽をイマーシブ体験できる没入型展示が展開されました。
イベント詳細については こちら をご覧ください。
MUUUSEにおける「AFC Image」システムについて
ヤマハのイマーシブソリューションが使用されたのは天球型ドーム形状のGALLERY A。「自然の記憶」をテーマとした本展示では、ギャラリー全面を使用した超高精細なプロジェクションマッピングと、ヤマハイマーシブソリューションによる32.2ch立体音響が一体となり、自然界の音にインスパイアされた音楽が展開され、多くの来場者に全方向から音と映像で包み込まれる没入体験を提供しました。
コンテンツの制作にはイマーシブオーディオの核となる音像制御システム「AFC Image」とSteinbergのDAW「Nuendo」を使用。32.2ch立体音響の再生システムでは、NEXOとヤマハのスピーカーが採用され、天球型の形状に沿った6レイヤーに分けてスピーカーを配置。天井・壁面のスピーカーには合計24台のNEXO「IDシリーズ」を、床面には8台のヤマハ「VXS5」、2台のNEXOサブウーファー「L18」が配置されました。







MUUUSE +「AFC Image」インタビュー Part 1
映画館のサラウンドの次元を凌駕する
32.2ch立体音響の没入感は圧倒的!


「MUUUSE:MUSIC MUSEUM」の狙いと背景について教えてください。
小向氏:
J-WAVEは2016年から「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA」(イノフェス)という音楽とテクノロジーを融合させたライブイベントを開催してきました。ただ、イノフェスは3日間という短期間のイベントだったので「2,3日に集中するフェスではなく、アーティストのパフォーマンスをデジタルパッケージし、2週間程度の間、好きな時に観客が体験できる形にできないか」と考えました。それでこのアイデアを森ビルの茂谷さんに相談したんです。すると「展示会ビジネスは2週間では不十分です。8週間くらいやらなければ成立しません」とアドバイスをいただきました(笑)。その言葉を受けて社内に持ち帰り役員と相談し、8週間の企画に練り直して、改めて森ビルさんにお願いしてMUUUSEが実現しました。
具体的なMUUUSEのコンセプトや内容について教えてください。
茂谷氏:
MUUUSEは音楽とテクノロジーが融合した体験型ミュージアムで、TOKYO NODEを舞台に新しい音楽エンターテインメントを模索するプロジェクトです。これまでもTOKYO NODEでは、「その場でしか味わえない特別な体験」をテーマにした体験型展示を行ってきましたが、MUUUSEでは特に音楽を中心に、没入感を高めることに挑戦しました。
具体的にはMUUUSEは3つのギャラリーで構成されています。
GALLERY A -「自然の記憶」
32.2chの立体音響とプロジェクションマッピングを組み合わせ、自然をテーマとした没入型体験が楽しめる空間です。
GALLERY B -「歌と感情」
巨大なLEDディスプレイを設置し、まるでアーティストのステージに立ち会っているかのような臨場感を提供するエリアです。
GALLERY C -「未来への実践」
AIが生成する音楽と次世代の光演出技術を融合した空間です。
MUUUSEにおいて音場制御システム「AFC Image」はどんな目的で使用されたのですか。
茂谷氏:
GALLERY A「自然の記憶」では、立体的な音響技術を活用し、自然現象や自然にインスパイアされた音楽を全身で浴びるような没入体験を目指しました。この企画にあたり、音楽家・芸術家の蓮沼執太さんがオリジナル音源を制作してくださいました。その音源の世界観を空間全体に広げ、来場者に一層深い没入体験を提供するために、ヤマハさんのご協力のもと、立体音響技術の「AFC Image」を採用しました。この32.2chという大規模な立体音響により、自然の中にいるかのような臨場感あふれる音響空間を見事に実現できたと思います。

小向氏:
スピーカー32台とサブウーファー2台の32.2chですからね。普通のサラウンドは5.1chや7.2chですが、これとはまったくスケールが違います。それに、天球型ドーム全体を覆うプロジェクションマッピングとの組み合わせで、どちらが正面という感覚もなく、まさに全方向・全感覚で音と映像に没入できる、これまでにない体験ができます。参加者からも「これまでにない感覚だ」と高い評価をいただきました。

お二方は「AFC Image」を体験してどのように感じましたか。
茂谷氏:
凄かったです。まだ企画段階の頃、「AFC Image」の効果を体験するために小向さんと一緒に浜松にあるヤマハさんのラボにおじゃましてデモを体験しました。その時「これは展示の中核に据えるべきだ」と確信しましたが、実際にギャラリー展示で試聴してみると、その時の予想をはるかに超えるものでした。企画段階では「土の音」や「風の音」といった抽象的なイメージしか持っていませんでしたが、「AFC Image」がそれらを見事に立体的に実現し、空間全体を包み込む音響体験を生み出してくれました。
小向氏:
私たちは音の専門家ではありますが、FM放送は基本的にステレオなんですよね。でも「AFC Image」の立体音響は、それとは比べ物にならないほど豊かで臨場感のある体験でした。音にこだわりを持つスタッフが社内にたくさんいますが、ぜひ彼らにも体験させたいです。

MUUUSE +「AFC Image」インタビュー Part 2
「AFC Image」が生み出す正確な空間定位と音像移動、そして幻想的な響きを創造する3Dリバーブを最大限に活用



MUUUSEで「AFC Image」を採用した理由について教えてください。
栃尾氏:
まず、弊社と株式会社タケナカは同じグループ会社であり、実はこの企画が具体化する以前から、我々のグループではヤマハさんとともに「AFC」を活用した新しいイマーシブコンテンツの可能性を模索していました。その一環として、東京・市ヶ谷にある弊社のスタジオに25台のスピーカーを設置したイマーシブコンテンツのデモ空間を構築し、ヤマハさんから「AFC」をお借りして試験的に運用していました。ちょうどそのタイミングでMUUUSEの話が持ち上がり、これは「AFC Image」を使う絶好の機会だと考えました。
具体的な制作プロセスについて教えてください。
栃尾氏:
今回、蓮沼執太さんが制作された音源は120トラック以上ありましたので、それを「Nuendo」で64トラックに編集し、64オブジェクトとして「AFC Image」と連動させる方法をとりました。音源が届いた段階では、まだTOKYO NODEでのスピーカー設置の真っ最中でしたが、同時に市ヶ谷のスタジオでプリミックスを行いました。そのNuendoプロジェクトを現場に持ち込むことで、限られたミックス期間の中でも効率的に作業を進められました。
現場では「Nuendo」と「AFC Image」を連携させ、64個のオブジェクトをGALLERY Aの3次元空間に定位させ、実際に音を聴きながらコンテンツのミックスを行っていきました。最終的には完パケをマルチトラックレコーダーに録音し、本番期間中はそれをプレイバックする形で運用しました。


「AFC Image」を使った音の演出の特長を教えてください。
栃尾氏:
視覚と聴覚がシンクロした没入感を実現するために、「AFC Image」のさまざまな機能を活用し、音が空間を縦横無尽に移動するような演出を取り入れました。特に、耳元をかすめるような音響効果を強調することで、これまでにない新しい音の表現を作り出すことができたと思います。GALLERY Aでの最終仕上げでは、さまざまなポジションでの音の聴こえ方を確認しながら、「Nuendo」や「AFC Image」のオブジェクトパラメーターを緻密に調整することで、音響的な完成度を高めていきました。


「AFC Image」を実際に現場で使ってみた感想はいかがですか。
栃尾氏:
他の3D音響ソフトでは音像がぼやけることがあるのですが、「AFC Image」は音の定位精度が非常に高く、狙った位置に正確に音が配置できました。また、操作がシンプルで直感的に行えるのも非常に優れていると感じました。
岩野氏:
私は実際にオペレーションを担当しましたが、「AFC Image」は音源の動きが非常にスムーズで、オブジェクトの移動や配置を直感的に操作できました。その使い勝手の良さのおかげで、短時間で効率的に作業を進めることができ、大いに助かりました。

32.2chという大規模なスピーカー構成による立体音響の音響デザインについて教えてください。
大内氏:
今回、音響システムのデザインは私が担当しました。GALLERY Aは特殊な形状であり、スピーカー設置には厳しい制約があったので、それらの条件に合わせてプランした結果、32.2chというスピーカー構成になりました。
使用したスピーカーは主にNEXOの小型スピーカー「IDシリーズ」です。このスピーカーは非常にコンパクトでありながら、高い音圧とナチュラルな音響特性を備えています。これにより、プロジェクションマッピングへの干渉を最小限に抑えつつ、空間全体を均一で迫力のあるサウンド環境にできました。また、「AFC Image」はオブジェクトベースで音を配置できるので、音の定位が非常に明確で、スピーカーが小型であっても複数のスピーカーを同時に活用することで迫力ある音が出せるようになります。これにより、あたかも空間全体が一つの楽器になったような、没入感のある音響空間を作り上げることができたと感じています。




「AFC Image」に内蔵された「3Dリバーブ」も多用したそうですね。
栃尾氏:
はい、使いました。「AFC Image」の3Dリバーブは、全てのスピーカーに対して個別に演算された反響音を送ることができるため、非常に自然で幻想的な音響空間が創造できます。特に今回のようにドラマチックな音響空間を演出する場面ではいい働きをしてくれると思います。ただし、現状では同時に使えるリバーブパターンが1種類のみなので、今後のバリエーション増加に期待しています。

今回のプロジェクト全体を通じての感想をお聞かせください。
栃尾氏:
「AFC Image」を本格的に活用した初めてのプロジェクトでしたが、非常に満足のいく結果が得られました。「AFC Image」が持つ可能性を改めて実感できました。
岩野氏:
「AFC Image」の高い汎用性と表現力を存分に体感できました。この技術が音響業界の新しいスタンダードとして広がっていくことを期待しています。
大内氏:
音響業界で「AFC Image」のさらなる活用が進み、新しい音楽体験が生み出されることを願っています。今回のプロジェクトが「AFC Image」のポテンシャルを示す一歩となれたら幸いです。

ヤマハ音像制御システム「AFC Image」について
「AFC Image」とは
「AFC Image」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、演劇、オペラ、コンサート、インスタレーションなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。
主な特長
- 洗練されたGUI上でのオブジェクト操作や音像サイズ調整により、緻密かつ迅速な音像コントロールが可能
- 特定のスピーカーセットにのみオブジェクト再生を割り当てできるスピーカーゾーニング機能を搭載
- 3Dリバーブシステムを搭載し、それぞれのリスニングエリアにて臨場感ある残響と音場を実現
- DAWやコンソールのパンニング操作を実空間の形状に最適化するレンダリングエリアコンバージョン機能を搭載
詳しくは 「AFC Image」製品ページ をご覧ください。